中学3年生の秋
水田の広がる風景の中にある
中学校の旧校舎から
琴の海の見える高台の
新校舎に移った.
朝早く
登校してきた
私とS君とNさんの
3人で
毎日
新校舎の屋上から
海を眺めていた.
心配した
宿直の先生が
屋上まで様子を見に来て言った.
"不思議な
光景だなあ.
似ても似つかぬ
3人が
海を眺めながら
楽しそうに話をしているなんて.
何を話しているんだ?"
私もSの君とNさんも
笑って返すだけで
何も答えなかった.
屋上から見える
瀬戸の冬の海は
雲間から差し込む
一条の光によって
七色に輝きながら
海の色を染めていく.
S君は
強度の吃音があった.
S君は
私とNさんとは安心して
話ができると言った.
私もNさんも
時々S君の吃音につられてどもることがあった.
そのとき
3人はどっと笑った.
私はこどもの頃から
体が弱く
マラソン大会は
いつもビリ,
Nさんは走るのが得意で
マラソン大会は女子の部で
いつも一位だった.
宿直の先生が
"似ても似つかぬ3人"と
評することに異存はなかった.
3人共
類似点より相違点の方が多かったのだから.
しかし
共通していることがひとつあった.
それは
友の語る言葉に耳を傾け
こころを通わせる力を
もっていることだった.
20歳になっても
30歳になっても
40歳になても
私は
あとのとき3人で見つめていた
心のなかにある
瀬戸の海を見続けている.
S君もNさんも
同じ海を見続けていると信じながら.
0 件のコメント:
コメントを投稿