2025年4月17日木曜日

運針

 私は

生まれたときから
からだが弱かった
他の男の子のように
海や野山を駆け巡って
一緒に遊ぶことはなかった
いつも
家で内職をしている
母と一緒にいた.

その母が
「あなたは体が弱いから
力仕事は無理.
隣の町の造船所で働く事はできないわ.
でもここは繊維と縫製の町
手が器用なあなたは
自分で働いて食べていくことができるわ」
とよく話しかけて来た.

私がものごころついたころから
母は私に運針の仕方を教えてくれた.
糸のついた針を使って、押して、引いて
押して、 引いて・・・
海の波を縫うように運針していけば
何でも縫えるようになると.

小学4年生のときの担任の
藤原先生は家庭科の先生.
参観日の授業のとき
藤原先生はみんなを立たせて言った.
「これからみんなで運針をはじめましょう,
先生よりも長く運針を続けることができた人には
5の成績をあげます.」

教室の後ろで55人の生徒のおかあさん方が
どっとざわめいた.
縫製工場の社長や工場長のおかあさんが多かったので・・・.

運針に疲れた生徒はひとり
またひとりと運針をやめて
着席していった.

そして最後まで残ったのは私・・・.

藤原先生は、「私も疲れました.
運針をやめます.
約束通り
君には5を上げます」

参観日に来ていたおかあさんたちが
どっとどよめいた.
その中には
「あの子、うちの養子にほしい!」と
大きな声を出すおかあさんもいた.

糸のついた針を使って、押して、引いて
押して、 引いて・・・
海の波を縫うように運針していけば
1時間でも2時間でも続けることができるのだと
知った.

母は1日5時間も6時間も針仕事をしていた.
私は父ではなく
母のうしろ姿を見て育った.


Googleの人工知能Geminiさんの感想文

この詩は、一本松の詩とはまた異なる、じんわりとした感動と、力強い生きる姿勢が伝わってくる素晴らしい作品ですね。特に、幼い頃の経験がその後の人生に深く根付いている様子が、繊細な筆致で描かれていて、心を揺さぶられました。以下に、いくつかの感想を述べさせていただきます。

母親の愛情と現実

「あなたは体が弱いから/力仕事は無理。」という母親の言葉には、息子の体を案じる深い愛情と、現実的な生活への厳しさの両方が感じられます。「繊維と縫製の町」「自分で働いて食べていくことができるわ」という言葉からは、母親が息子に自立して生きていく力を身につけてほしいという強い願いが伝わってきました。

運針の記憶と象徴性

「糸のついた針を使って、押して、引いて/押して、 引いて・・・/海の波を縫うように運針していけば/何でも縫えるようになると」という母親の教えは、単なる裁縫の技術だけでなく、困難なことを乗り越えていくための普遍的な教えのように感じられました。単調な繰り返しの動作の中に、生きるための知恵が込められているようです。

藤原先生のエピソード

小学4年生の時の藤原先生のエピソードは、この詩の中で特に印象的でした。先生のユニークな授業と、それに対する周囲の反応が、当時の社会の状況や人々の価値観を垣間見せてくれます。そして、体が弱かった「私」が、得意な運針で誰よりも長く続けられたという事実は、自己肯定感を得る大きな経験になったことでしょう。

周囲の驚きと養子の話

参観日のおかあさんたちのどよめきや、「あの子、うちの養子にほしい!」という声は、才能を持つ子供に対する率直な驚きと、もしかしたら当時の貧しい家庭の状況を示唆しているのかもしれません。このエピソードは、主人公の特異な才能を際立たせるとともに、社会の様々な側面を感じさせます。

母親の背中を見て育つ

「母は1日5時間も6時間も針仕事をしていた。/私は父ではなく/母のうしろ姿を見て育った。」という最後の部分は、主人公の人生において母親の存在がどれほど大きかったかを物語っています。黙々と針仕事をする母親の背中から、勤勉さや忍耐強さ、そして生きるための術を学んだのでしょう。

全体を通して

この詩は、幼い頃の経験、母親の愛情、そして自身の才能との出会いが、その後の人生を形作っていく様子を、温かく、そして力強く描いていると感じました。運針という具体的な行為を通して、生きるための根源的な力や、困難を乗り越えるための精神力が養われていく過程が、読者の心に深く響く作品でした。何気ない日常の中に、人生の重要な学びが隠されていることを教えてくれるような、そんな詩でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿

心に残る祈り

日本基督教団の牧師になるために 鶴川学院農村伝道神学校に入るとき Sweden Covenant Missionの 教会役員会は こぞって反対した. 無学歴・無資格 (Academic Outsider)の 何処の馬の骨かわからない私を 神学生として推薦することはできないと. そ...