教会員の中に
元山口県警の警察官がいた.
彼は
定年間際, 警察官を中途退職して
その退職金を
被差別部落出身の奥さんが
つくったサラ金の借金返済に当てた.
しかし
それでも残った多額な借金を支払うために
彼は警備員の仕事をして
昼夜を分かたず働きに働いた.
奥さんは
経済的に困窮している夫とは
一緒に過ごせないと
別居した.
彼は手料理を食べていないというので
妻は私につくった料理を運ばせた.
彼はいつも美味しいと言って食べてくれた.
あるとき
被差別部落出身の教会員から
彼がなくなったとの知らせが入った.
彼女の話しでは
奥さんのつくったサラ金の
借金の最後を支払った日に
自殺したと言う.
彼の家にかけつけると
彼のなきがらの前に
遺書が残されていた.
牧師あての遺書もあったので
それを開いて読んだ.
彼は岩国教会の牧師から洗礼を受け
岩国教会で信仰生活をしていたが
私が牧師として赴任した教会の前任者を
助けるように言われて
岩国教会から転籍をしていた.
彼は
前任者が自害したことにショックを受けた.
若い牧師を支えることができなかったと.
そして 彼に洗礼を授けた
岩国教会の牧師 (元日本基督教団総幹事・元農村伝道神学校の校長)が
自殺したことは彼にさらなるショックを与えた.
彼は牧師である私に当てた遺書の中で
苦難と試練の中を生きてきて
いろいろ考えているうちに
自殺した前任の牧師も
岩国教会の牧師も
主なる神さまは許してくださっていると思うようになり
私も自殺をすることを決心した.
神さまは自殺する私をも許してくださると信じて・・・.
私は
そのまま
彼の奥さんと息子とむすめさんが家に戻って来るのを待った.
夕方になり
夜6時になり
7時になり
8時になり
9時になり
10時になっても
喪主を務めることになる長男の方は
帰って来なかった.
彼が家に戻ってきたのは夜の11時を過ぎてからだった.
私は
"なぜ 同じ市内にすんで
家に戻るのにこんなに時間がかかったのか"
問いただした.
彼は,
"父の死を知らされて呻吟していた"という.
彼は
被差別部落を出て
一般地区の集合住宅で生活していた.
彼と彼の家族を部落として差別するものは
誰もいなかった.
しかし
被差別部落に住んでいる父の葬儀の喪主をつとめることになると
新聞にその名前が記され
自分が部落民であることが白日のもとにさらされることになると
父親の葬儀の喪主になることを極度に恐れて
家に戻ってくるのが遅れたという.
自殺した父親の
教会にあてた遺書の中に
彼の葬儀の費用は教会で出してほしい.
そして火葬はしないで
山口大学医学部の白菊会に
医学生の解剖実習のために献体してほしいと
必要書類と連絡先が書かれたあった.
私は
彼の遺言にしたがって
教会の信徒を集めて
密葬した.
そして
彼のなきがらを
霊柩車ではなく
山口大学医学部の白菊会のクルマに乗せて
送り出した.
彼の奥さんも
息子・娘さんも彼の葬儀のために
お金を使うことがないように
葬儀に際しても主として彼らの名前が出ることがないようにという
彼の遺書には
彼らに対する父親としての最後の配慮が記されていた.
納棺式のとき
式文にそって聖書のことば
"主はわたしの牧者であって
わたしには乏しいことがない.
主はわたしを緑の牧場に伏させ
いこいのみぎわに伴われる.
主はわたしの魂をいきかえらせ
み名のためにわたしを正しい道に導かれる.
たとえわたしは死の陰の谷を歩むとも
わざわいを恐れません.
あなたがわたしと共におられるからです.
あなたのむちとあなたのつえはわたしを慰めます."
を読んでいるとき
私の体のそこから
この上ない悲痛と嗚咽が
込み上げて溢れ出した.
どんなに止めようと思っても
溢れ出てくる涙を抑えることはできなかった.
そのとき
こころのなかで
思っていた.
"こんな悲劇的な状況を
ひとにもたらす部落差別とは何なのか?
部落の名のもとに
一人も差別されない世の中にしなければ
部落差別の根っこを暗い大地の中から引きずりだして
根絶やしにしなければ・・・.
部落差別は神の敵で
悪魔のもたらす業だ" と.
私は
自分の父の死に際しても
涙を流したことはない.
しかし
元山口県警の警察官であった
教会員の彼の葬儀に際しては
とめどもなく涙が溢れてきた.
そのことがあって
私は
日本基督教団の一牧師として
真剣に部落差別問題に取り組むことになった.
Googleの人工知能Geminiさんの感想文
あなたの書かれた詩を拝読しました。まず、この詩が非常にパーソナルで、心に深く響く内容であることに感銘を受けました。あなたが実際に経験されたであろう、警察官だった教会員の方との出会い、彼の苦悩、そして突然の死、それに続く葬儀での出来事が、詳細かつ生々しく描かれており、読み手の心を強く揺さぶります。
特に印象に残った点をいくつか挙げさせていただきます。
登場人物の人間性が浮き彫りになる描写
- 元警察官の教会員の葛藤と尊厳: 定年を前に退職し、奥様の借金返済のために昼夜問わず働く姿、別居に至る経緯、そして最期に「神さまは自殺する私をも許してくださる」と記された遺書からは、彼の深い苦悩と、それでもなお信仰に希望を見出そうとした彼の人間性が伝わってきます。手料理を「いつも美味しいと言って食べてくれた」という描写も、彼の純朴さや、差し伸べられた温かい心遣いへの感謝が感じられ、胸が締め付けられます。
- 息子の苦悩と差別の現実: 父親の葬儀の喪主を務めることを極度に恐れ、家に戻るのが遅れた息子の描写は、被差別部落という問題が、いかに個人の尊厳を深く傷つけ、家族の絆にまで影響を及ぼすかを痛感させられます。「自分が部落民であることが白日のもとにさらされる」という彼の言葉は、差別がもたらす恐怖と屈辱を如実に物語っています。
- あなたの感情の吐露: あなたが自身の父親の死に際しても涙を流さなかったにもかかわらず、彼の葬儀で止めどなく涙が溢れてきたという告白は、この出来事があなたにとってどれほど衝撃的で、心に刻み込まれたものだったかを物語っています。特に、「こんな悲劇的な状況をひとにもたらす部落差別とは何なのか?」という心の叫びは、差別への強い憤りと、それを根絶したいというあなたの強い意志が表れており、読み手の感情を揺さぶります。
重層的なテーマ
この詩には、いくつかの重層的なテーマが織り込まれていると感じました。
- 人間の苦悩と信仰: サラ金問題、夫婦関係の破綻、そして最終的に自殺という形で人生を終えた教会員の姿は、人間の計り知れない苦悩を浮き彫りにします。同時に、信仰が彼にとってどのような意味を持っていたのか、そして自殺という行為が信仰とどのように向き合わされたのか、深く考えさせられます。
- 部落差別の現実と根深さ: この詩の根底には、被差別部落という問題が、現代社会においてもなお、人々の生活や精神に深く影響を及ぼしている現実が描かれています。差別が個人の尊厳を奪い、家族関係にまで影を落とす様は、非常に痛ましく、この問題の根深さを改めて認識させられます。
- 牧師としての葛藤と使命感: あなた自身が牧師として、教会員の死に直面し、その遺志を受け止め、差別問題に真剣に取り組む決意をするまでの過程が描かれています。これは、信仰者が社会問題といかに向き合うべきか、という問いを投げかけているようにも感じられました。
表現について
全体的に、飾らない言葉で事実を淡々と、しかし感情豊かに綴られているのが印象的です。特に、時間経過の描写(「夜6時になり 7時になり 8時になり…」)や、詩の終盤での「とめどもなく涙が溢れてきた」という表現は、あなたの当時の心の状態を鮮やかに伝えています。
聖書の引用「主はわたしの牧者であって…」の箇所で、あなたの体から「この上ない悲痛と嗚咽」が込み上げてきたという描写は、言葉にならないほどの深い悲しみと、その言葉が持つ力を同時に感じさせ、詩のクライマックスを形成しています。
この詩は、単なる出来事の記録ではなく、人間の尊厳、差別、そして信仰という普遍的なテーマを深く掘り下げた、非常に力強い作品だと思います。あなたがこの詩を通して伝えたいメッセージが、読み手にしっかりと届きました。この詩を書かれたこと自体が、あなたの真摯な思いの表れだと感じます。
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